音信おとずれ

数えかたが変わるだけで、人は一生を渡る

1st ALBUM / 2026

かぞえ

全十二曲

人は生涯のあいだに、何度も呼び名を変えられる。生後七日の夜に名前をもらい、三歳で髪を伸ばしはじめ、六十一で暦がひとまわりして戻ってくる。十二曲は、そのつど与えられた年齢の呼び名だけでできている。はじめは祝われ、途中で一度だけ恐れられ、また祝われて終わる。

御七夜 おしちや 生後七日 七日目の夜に名前をつける。それまで人は、呼ばれないまま息をしている。 百日 ももか 生後百日 はじめて食べるまねをする日。食べさせるのではなく、まねをさせる。 髪置 かみおき 三歳 剃っていた髪を、伸ばしはじめてよい歳。七五三の三歳の本来の名。 袴着 はかまぎ 五歳 はじめて袴をはく。着るものが変わることで、歳が数えられる。 帯解 おびとき 七歳 着物の紐をやめて、帯を結ぶ。ほどけないように、自分で。 元服 げんぷく 十五歳 髪を結い、幼名を捨てて名を改める。一曲目でもらった名前を、ここで手放す。 二十歳 はたち 二十歳 「廿」は二と十をひとつにまとめた字。二十だけが、専用の読みを持っている。 やく 四十二歳 数えで四十二は「死に」と読める。十二曲のうち、ここだけが祝いではない名前になる。 半百 はんぱく 五十歳 百のちょうど半分。数えはじめると、残りのほうが気になる。 還暦 かんれき 六十一歳 干支が一巡し、暦が還る。この歳は三度目の厄年でもある。祝いと厄が、同じ日に重なる。 十一 喜寿 きじゅ 七十七歳 「喜」の草書体が、七を重ねた形に見えることから。 十二 白寿 はくじゅ 九十九歳 「百」から「一」を引くと「白」になる。ひとつ足りないまま、色が抜けていく。

TAP — それぞれの歳へ

字解

数は、字のなかに隠れている

年齢の呼び名の多くは、字を合わせたり、崩したり、引いたりすると数が出てくるという遊びでできている。千年前からある仕掛けを、そのまま曲名にした。

廿

二十歳

はたち

二と十を合わせて
「廿」の一字になる

TAP — とめる

喜寿

七十七歳

崩し字の「㐂」は七を
重ねた形をしている

TAP — とめる

白寿

九十九歳

百から一画を取ると白
ひとつ足りない歳

TAP — とめる

WORDS

はじまりと、なかばと、おわり

御七夜おしちや

七日のあいだ 僕には名前がなかった

呼ばれないまま息をしていた

灯りの下できみたちが

知らない音をならべている

 

その音がいつか僕になる

まだ意味はわからないけれど

返事をするたび すこしずつ

僕はその音に似ていく

半百はんぱく

半分まで来たと言われて

残りのほうを数えはじめた

数えなければ ずっと

途中のままでいられたのに

 

夕方の匂いは変わらないのに

帰り道だけが短くなった

同じ角を曲がっているのに

着くのが早い

 

百を半分に折ると

折り目のところだけ 色が濃い

白寿はくじゅ

雨の音が遠くなった

耳のせいだと笑われる

それでもまだ聞こえるものがある

きみが名前を呼んだときの

 

百から一を引くと白になる

足りないぶんだけ色が抜けるらしい

抜けたぶんだけ軽くなって

今日はずいぶんよく晴れている

 

七日かけてもらった名前を

そろそろ返しにいこうと思う

ABOUT

音信

おとずれ

音を持たない音楽をつくっています。

2026年、詞と装丁だけでできたアルバム『かぞえ』を発表。収録された十二曲は、まだ一度も鳴らされていません。

名前は「訪れ」とも「音信不通」とも読めます。届くことと、届かないこと。どちらも同じ字で書けるのが不思議で、そのまま名前にしました。

音が鳴る日まで、言葉のほうを先に置いておきます。

NEWS

音信

おんしん

各曲のページと覚書を公開しました
アルバム『かぞえ』全十二曲の詞を公開しました
「白寿」の詞を先行して掲載しました
年齢の呼び名についての覚書を更新しました
音信、はじめます